主要課題の技術的側面

エネルギー効率

自然エネルギー経済は、エネルギー消費を大幅に削減してはじめて成立する。エネルギー効率を改善するための政策は導入されてはいるが、その内容はいつまで経っても不十分であり、理論的に可能なレベルはおろか、妥当と思われるレベルにも達していない。

ドイツのエネルギー転換といえば、主に原子力と石炭火力発電から自然エネルギーへ転換することだと思う人が多い。しかし実際は、自然エネルギーで未来を築くには、エネルギー消費の大幅な削減が不可欠なのだ。

『ファクター4』の著者 たちが20年近く前に示したとおり、エネルギー消費を削減することは必ずしも生活水準を下げることにはならない。逆に化石エネルギーの消費は、我々の健康に悪影響を及ぼし、文明にとって脅威となる気候変動を進展させてしまう。さらに、原子力による電力を消費することにより、この先何千年も後の世代を脅かす核廃棄物の「山」を築いてしまうことになる。

この20年間、大半の工業国においては、エネルギー消費量と温室効果ガスの排出量の増加を上回る勢いで経済成長が進んできた。エネルギーの生産性、つまりエネルギー消費量当たりの経済生産高は、1990年から2013年の間に約40%増加したと見積もられている。

エネルギー利用に対する認識

人々が求めているのはエネルギーそのものではなく、エネルギーの働き、つまりエネルギーを利用してできることである。言い換えれば、欲しいのは大量のガソリンではなく簡単に移動できることであり、電力や燃料油ではなく冷蔵庫や照明のある快適な家である。コンピューターや携帯機器は、この10年間で省エネ化が進むと同時に性能も格段に向上した。このような進化は、幅広い分野で可能である。たとえば、エネルギー集約型の冷暖房システムを使うだけでなく、空気を適切に浄化して二酸化炭素濃度を低くすることによっても、建物の中で快適な環境を保つことができる。つまり、未来の建物では、消費するエネルギーを今より抑えても、より快適な屋内環境が実現できるということだ。

しかし、エネルギーの効率化には、情報という特別な障壁が存在する。効率化については市場に任せておけばすべてがうまくいくという経済学者がいるが、彼らが前提としているのは、すべての市場参加者に等しく十分な情報が提供されており、すべての有効な効率化策が既に活用されている状態なのだ。

実際、ほとんどの消費者は自分の月々の電気代くらいは知っているかもしれないが、消費した電力が何kWhなのかはあまり把握していないだろうし、特定の機器の年間電力消費コストを確認する習慣のある人もあまりいないだろう。しかし、こうした情報がなければ、エネルギー効率化への投資の見返りを評価することは不可能だ。したがって、市場が最善の策に導いてくれると信じるにしても、政府は引き続きすべての人に正しい情報が確実に行き届くよう保証する必要がある。

意識の向上

特に分かりやすい例は待機電力の消費量である。ほとんどの消費者には知られていないが、コーヒーメーカーやトースター、テレビ、ゲーム機、コンピューターなどの家電製品は、電源が切れているときも電力を消費している。こうした「待機電力の消費量」は、2004~2006年のドイツの総電力需要の4%を占めた。ドイツ国内のすべての電車およびトラムが消費する電力の3%より多いことになる。消費者には、安価な電化製品の場合、年間の電力コストが製品の購入代金より高くなる場合もあることは必ずしも認識されていない。

政府から市場参加者への情報提供の一例として、欧州連合のエコデザイン指令、別名ErP(エネルギー関連製品)指令が挙げられる。この指令は、(エネルギーの観点からだけでなく)ライフサイクル全体を通して製品の持続性を高めることを目的としている。その具体的な方法には、消費者が購入時に目安にするラベルの提供や、製品設計に対するより厳しい省エネ基準の設定などがある。この法制については、「エコデザイン/ErP指令」の項で詳しく扱っているので、そちらをご覧いただきたい。

欧州連合(EU)は建物のエネルギー消費の削減にも取り組んでおり、ドイツはこの活動においても最前線に立っている。ドイツでは2002年に省エネルギー令が採択され、2009年と2014年に厳格化された。早くも1990年代には、未来の基準となるパッシブハウスと呼ばれる住宅が建てられ始めた。この住宅に屋上太陽光パネルを設置すれば、エネルギー収支がプラスになる。EUでは、2020年以降に建設されるすべての住宅は「ほぼゼロエネルギー住宅」にすることが義務付けられる。ドイツのパッシブハウスが、実質的に欧州の基準となるということだ。

新築の建物についてはこのような新たな法制で対応できるが、既存の建物についてはドイツにも対処すべき課題がある。ドイツの年間改築件数を基にした改築率は約1%と非常に低いため、これを倍増させる必要がある。しかも、改築が行われてもその内容が十分でない場合も多い。よくあるのは、断熱材の追加が不十分なケースや、使用されている建築設備の技術が40年後に満たしていなければならない要件を満たしていないケースである。

この内容については、第3章-H「省エネルギー令(EnEV)と資金援助スキーム」の項でも扱っているので、そちらをご覧いただきたい。ただし、2015年の時点で、ドイツが2020年までにその効率化の目標を達成できる見込みはない。

効率の改善

電力の効率についても、まだ大幅な改善の余地がある。調査によると、産業界で使用される電動機の年間電力消費量は、2020年までに30 TWh程度削減できるという。これで、集中型の発電所数カ所分の電力が不要になる計算である。ほかにも、高効率の照明システムを利用したり、効率の悪い電気ヒーターから高効率のシステムに移行したりすることで、これと同様の節電が可能である。

ドイツは電力消費量について、2020年までに10%減、2050年までに25%減という野心的な目標を立てた。しかし2014年の時点で、この2020年の目標達成に向けたドイツの取り組みは予定どおりに進んではいない。

残念ながら、エネルギー効率化の推進については十分な取り組みが行われていない。EUでは、温室効果ガス排出量(2020年までに1990年比で20%減)と自然エネルギー(2020年までに20%)については拘束力のある目標が設定されているが、エネルギー効率の目標(2020年までに一次エネルギー消費量20%減)には拘束力がない。2030年に向けては、温室効果ガス排出量40%減という拘束力のある目標が設定されている。同じ年の自然エネルギーの目標は27%だが、これはEU全体の目標としてのみ拘束力があり、各加盟国に対する具体的な目標値はない。最後に、エネルギー効率の目標も27%で、拘束力はない。

2014年、このような行政側の行動の乏しさを認識したドイツ政府は、2014年12月にエネルギー効率化に向けた国家行動計画を策定した。この総合計画には、エネルギー効率化のための融資の改善、エネルギー効率化のための新しい入札制度、企業・一般家庭のための情報および監査活動の改善など、多くの効率化のための施策が盛り込まれている。この計画はまだ実施前の段階であるが、主な施策の一つだった建物改築のための税額控除制度は、ある州から猛反発を受けて撤回された。

エネルギー効率化は、今のところエナギーヴェンデの成果が最も出ていない分野である。この調子でエネルギーの消費を続けていると、エネルギーを100%自然エネルギーで賄うことはできない。エネルギー効率化は些末な点ではない。エナギーヴェンデに欠かせない要素なのだ。