主要課題の技術的側面

系統と電力貯蔵

自然エネルギーでの電力供給を拡大するには、ドイツの系統の拡張が必要であることは誰もが認めているが、具体的な施策については意見の一致が得られていない。新たに必要な送配電線の長さについても、4,500 kmとする試算がある一方、自然エネルギー業界はその半分で十分だと考えている。現在のドイツの系統は、3万5,000 kmの超高圧送電線と9万5,000 kmの高圧線からなり、そのすべてが従来型の発電のために設置されたものである。これと比べると、自然エネルギーのために新たに必要となる送配電線は大した長さではない。中圧電線は51万 km、低圧配電線は約110万 kmある。

太陽光と風力は調整電源ではないため、自然エネルギー電力への移行には技術的な課題が伴う。集中型の石炭および原子力発電所では電力需要に応じて出力を上げられるが、風力発電機や太陽光パネルでは、同じように出力を切り替えることはできないのだ。これには、いくつかの解決策が考えられる。

全般的な問題は、系統の崩壊を防ぐためには、ある特定の瞬間に必要とされる電力をその瞬間に正確な量で提供しなければならないということである。このために従来から行われてきたのが、発電量を需要に合わせて調整するという方法だ。電力の貯蔵については、天然の地下洞窟での圧縮空気の貯蔵から、揚水貯蔵(水力)、フライホイール、蓄電池まで、現在さまざまな方法が検討されている。注目すべきは、電力貯蔵のための燃料として天然ガスを当面は利用し、最終的には持続可能なバイオガス、また風力や太陽光の余剰電力で生成された水素に変換して電力貯蔵を行うというドイツの計画だ。このとき、太陽光と風力からの電力はガスとして貯蔵され(「電力からガスへの変換(power to gas)」またはP2Gと呼ばれる)、車の燃料、暖房、調整電源の供給に利用されるようになる。最後に、「スマートグリッド」によって、今とは逆に電力需要を自然エネルギー電力の供給に合わせて調整できるようになる。

電力貯蔵の必要性

とりわけドイツの限られた揚水貯蔵の容量(水力)を考慮すると、欧州を一体として見ることが解決策かもしれない。たとえばノルウェーやスイスのように揚水貯蔵の将来性が非常に高い国に、ドイツから大量の電力を輸出することが提案されている。現時点ではこれらの国との間に十分な接続は確立されていないが、そのための準備は進められている。2015年には、ノルウェーとドイツの間に1.4 GWの新たな接続を設ける計画が確定した。ただし、ドイツで自然エネルギー電力を安定供給するために、(共にEUにも加盟していない)ノルウェーやスイスが、自然のままの渓谷やフィヨルドをこれ以上大量の水で満たそうとするかどうかは、今のところ不明である。

中期的には、大半の組織がドイツでの電力貯蔵の必要性は最小限に抑えられると考えている。2012年10月にWWFのために行われた調査では、貯蔵技術の市場は2030年までは大規模なものにはならないことが示された。また、ドイツの電気・電子・情報技術協会VDEの予測では、ドイツの自然エネルギー電力のシェアが40%に到達するまでは、電力貯蔵の十分な必要性はないとしている。この40%という数値は、2020年頃には確実に実現できるだろう。さらに、フラウンホーファーISEが指摘するのは、変動型自然エネルギー電力のシェアだけでなく、変動型自然エネルギーと調整できないベースロード電源の組み合わせによっても、必要な貯蔵容量は変わってくるということだ。言い換えれば、主に褐炭と原子力の発電所からなるベースロードの発電容量を削減することにより、電力貯蔵の必要性を低減することができる。

大局的に見た自然エネルギーのための系統拡張

これらの方法を議論する前に、全体を大局的に見てみよう。まず、ドイツの自然エネルギー電力のシェアは、系統の大幅な変更なしに1990年代初めの3%から2014年の27%以上にまで伸びた。結局、風力、バイオマス、太陽光は、少なくとも今のドイツの仕組みにおいては、かなり分散されたエネルギー源なのである(第2章 – I 「人々による人々のためのエネルギー」参照)。

自然エネルギーのために系統の拡張が必要になると、自然エネルギーに批判的な人から不満の声が上がることがある。たとえば次のような意見もその一つだ。「風力発電所の欠点は、電力の必要ないところに設置しなければならないことだ。そのため、そこで発電した電力はどこか別の場所へ移動させなければならない。」

実はこの発言は、風力ではなく石炭火力発電の欠点の説明としてより適切だ。太陽光、風力、バイオマスの発電設備は、従来型の発電所と違ってどんな場所でもかなり均等に分散させて設置することができる。一方、褐炭火力の発電所が設置されるのは、決して電力が必要な場所ではなく、褐炭が地中から採掘される場所である。全世界で売買される無煙炭を燃料とする発電所も、従来からドイツのルール地方のように石炭の供給源の近くに建設されていた。しかし、大量の石炭を運搬するより大量の電力を送配電線経由で送るほうが、はるかに簡単でコストもかからないのは明らかである。また、石炭火力発電所は(ルール地方のように)工業地域の近くに設置されることが多いという指摘もあるかもしれないが、それは本末転倒である。200年ほど前の産業革命初期の頃には、ルール地方のほとんどの町は小さな村に過ぎなかった。ルール地方に産業があったから石炭火力発電所が建設されたのではなく、そこに石炭が大量に埋蔵されていたから産業が発展したのだ。

さらに、原子力発電所の場合は、ウランが採鉱される場所ではなく電力が必要な場所に建設されるケースが多いが、集中型の発電所はどれも巨大であるため、その接続のために必ず系統が拡張される。1960~70年代にドイツで原子力発電所が新たに建設されたときは、系統の拡張が必要になっただけではなく、原発の出力量を毎日下げなくてもいいように夜間に電力から熱を生成できる家庭用電気暖房システムが大幅に普及することになった。自然エネルギー電力の分散型供給は、それと比べればはるかに簡単で環境への影響も少ない。2010年に亡くなったドイツの自然エネルギー専門家ヘルマン・シェーアはかつて、分散型電力供給と従来の集中型電力供給を比較し、後者を「チェーンソーでバターを切るようなもの」と述べていた。

系統の拡張

自然エネルギーの統合を推進するために系統の拡張が必要であるという点には、誰もが賛成しているが、追加すべき送配電線の数や場所、種類といった細かい内容の数々については、あまり合意が得られていない。さらに、自然エネルギー業界自体がエネルギー転換の低コスト化を検討しているため、広範な系統の拡張に代わる安価な方法をいくつも提案している。その上、電線の近くには誰も住みたがらないので、計画の段階における市民への説明が必須であり、それにはさらなる透明性が求められている。

配電系統の構成は以下のとおりである。

送電系統は、約3万5,000 kmの220 kVおよび380 kVの送配電線からなる。これは、ドイツと隣国を接続する超高圧線であり、長距離の送電が行われている。

  1. 複合企業、大規模産業向けの約9万5,000 kmの高圧線(60~110 kV)
  2. 病院など多数の大型施設向けの約50万 kmの中圧線(6~30 kV)
  3. 一般家庭、小規模企業向けの約110万 kmの低圧線(230 Vおよび400 V)

ドイツには投資家が所有する送電会社が4つあり、それぞれが国内の4つに分割された送電系統の担当部分を運営している。一方、配電系統は約900もの事業者により運営されている。

増設すべき送配電線の長さ

では、ドイツのエナギーヴェンデのためには何をすべきだろうか?現在のところ、北部には風力発電、南部には太陽光発電が多く導入されている。ドイツエネルギー機構(dena)が発表した2件の研究(系統研究IおよびII)では、ドイツの風力発電容量を2020年までに27 GWから51 GWに増やし、そのうち10 GWを北海およびバルト海の洋上に導入するのなら、約4,500 kmの超高圧線の増設が必要になると推定されている。しかし、自然エネルギー業界関係者のなかには、この長さは半分以上短縮できるという意見もある。

実際、この2件の研究はドイツの自然エネルギー支持者から大きな批判を受けた。その主な理由は、基礎データが公開されていないため、研究結果の精査ができないからだ。しかし、この研究が示す規模を前提としても、風力発電の容量を倍近くまで増やすのに、送電系統の拡張率はわずか13%足らずで済むことになる。さらに、政府が北部に洋上風力を増設する代わりに、南部での陸上風力の導入を促進すれば、これらの送配電線の多くは不要になるかもしれない。風力発電業界では、この数年間のうちにドイツ南部のような風の弱い地域に合わせて設計された高い支柱と長いブレードを備える特別な風力発電機が開発された。こうした陸上風力発電機を南部に設置すれば、送配電線はそれほど必要にならず、ドイツのエネルギー転換の総コストを削減できる。しかも、導入コストの面でも陸上風力は洋上風力よりはるかに安い。

太陽光発電の支持者からも、太陽光発電の固定価格買取制度を(フランスの事例のように)地域に応じて調整してほしいという声が上がっている。そうすれば、北部での太陽光発電の導入が進み、系統を統合しやすくなる。

送電系統より下流については、政府が「緊急に必要な送配電線」のリストを発表した。リストに示された送配電線の総延長は約1,900 kmだが、そのうち設置が完了したのはわずか200 kmである。問題の一因は住民からの反発(頭上に電線が通るようなところには誰も住みたくない)だが、煩雑なお役所的手続きや資金調達の問題も、遅れの原因となっている。地下にケーブルを敷く方法もあるが、そうするとコストが高くなる。

しかし、ここで改めて留意してほしいのは、原子力と化石エネルギーの供給だけのために設けられた何十万 kmもの送配電線からなる系統に対して、ここで増設を議論している送配電線はたったの1,900 kmであるという点だ。

系統の拡張に代わる手段

しかし、ドイツの自然エネルギー業界も、将来の保証された系統が政府により提供されるのを、ただ手をこまねいて待っているわけではない。太陽光発電業界では、超高圧線のより効率的な活用方法が考え出された。太陽光発電所が「位相発振器」の役割を果たすことにより、系統の周波数を安定させるというものだ。業界は、この方法によって増設すべき送配電線を減らせると期待している。

風力発電業界でも、多数の案が出ている。ドイツの法律には「n+1」という規定がある。送配電線を設置するときには、停電時に代わりに容量を引き受けられる予備送配電線を必ず用意しなければならないという意味だ。風力発電業界は、この規定が要らなくなる解決策を見出した。それは、自然エネルギーを接 続するための専用送配電線を設けるというものだ.

さらに、欧州連合でも、エネルギー同盟計画の一環として、加盟国間の相互接続の強化を目指している。だがその一方で、ドイツで風力と太陽光による発電量が急増したことによって、特にポーランドやチェコなどの国では既に電力の輸入が増加している。したがって、このような国ではこれ以上の連系強化は困難かもしれない。ポーランドの政府関係者は、国内の系統管理をより円滑に行うためには、ドイツとの系統接続を拡大するどころか縮小しなければならないかもしれないと発言している。