主要課題の技術的側面

柔軟な発電(ベースロードはもう要らない)

断続的な太陽光と風力による発電が、やがてはベースロード電源のシェアを大幅に切り崩すことになることは既に明白である。ドイツでは、ベースロード電源が変動型自然エネルギーと相性が悪いことは何年も前から認識されている。自然エネルギーを補うには、比較的速く出力量を増減できる調整可能な発電所が必要となる。現在は、(容易に出力量を変えられない原子力発電所などの)ベースロードではなく、(ガスタービンなどの)ミディアムロードやピークロードが、そのような出力量の増減に対応できる発電所に該当する。このような予備の発電容量に対価を支払うためには、電力市場の再構成が必要である。だからこそ、現在ドイツでは容量市場と戦略的予備力がますます注目されているのだ。

容量市場については、2015年にメルケル首相が反対の立場を表明したため、中期的に見てドイツに導入されることはなさそうだ。しかし、「冬季予備力」は2.5 GWから4 GWへ拡大する見込みだ。冬季予備力は、暖房が必要な季節に電力需要がピークに達するときなどの緊急の場合を除き、必要とされない発電所で賄われる。このような発電所は、待機するという役割に対して補償金を受けとるが、それ以外に電力を売ることは禁じられている。

では、日照がなく、風も吹かないときはどうすればよいか?ドイツ以外の国々で多い意見は、自然エネルギーに転換するまでのつなぎの技術として、今世紀中は従来型発電所が必要であるというものだ。特によく論じられているのは、出力が安定しない風力発電機やソーラーパネルでは供給できないベースロード電源の必要性だ。しかし、既に風力と太陽光からの電力を大量に利用しているドイツの人々は、異なった見解を持つ。他の多くの国々の傍観者が驚くその見解とは、ベースロード電源の需要はそのうち過去のものとなるというものだ。必要なのはベースロードではなく、柔軟性が高く、すぐに調整できる発電なのだ。石炭や原子力による集中型の発電所のことを考えれば、この違いは容易に理解できる。このような類の発電所は、いったん運転しはじめたら保守点検が必要になるまでフル稼働に近い状態で運転し続けることを理想とする。特に原発は、数時間のうちに簡単に出力量を変えることはできない。そのため、最終的には2つの観点から悪い結果を招く事態となる。一つ目は、燃料費はわずかに減るものの、固定費は変わらないため、発電コストが上がるということだ。2つ目は、発電所自体が熱疲労を受け、その全体的な耐用年数が縮まる可能性があるということだ。

こうした新たな状況は、ドイツの4大電力会社を窮地に追い込んだ。これらの電力会社の発電容量は、消費のピーク時には大幅に値上げして売電できるという仮定に基づいて設定されている。しかし、今では電力消費量はこれまでと変わらず、ピークには70 MW以上に達する日が何日かある、という状況の中で、太陽光と風力が従来型電力の発電量を40 MW台前半にまで抑え込んでしまっている。これは、大規模電力会社に割り当てられたベースロード電源のレベルとほぼ同じである。ほんの10年前には、風力・太陽光発電は、大規模な電力供給を担うことなど絶対にできないニッチな技術として、これらの電力会社から見下されていた。ところが今では、その風力・太陽光発電がこれらの会社を不採算に追い込んでいるのだ。

2014年末、ドイツの電力会社エーオンが、会社を2つに分割し、1社を自然エネルギーと新サービス、もう1社を従来型エネルギーの会社とすることを発表した。スウェーデン政府が完全所有する電力会社ヴァッテンフォールも、ドイツの石炭資源から撤退する計画を発表した。だが、その動機は金銭的ではなく政治的なものである。2014年の選挙で誕生したスウェーデン政府が、国内と同様に外国においてもクリーンな事業展開を同社に求めたのだ。バーデン=ヴュルテンベルク州政府に最近買収された電力会社のEnBWは、今ではより「グリーン」な戦略を推進している。電力会社RWEでは、エナギーヴェンデのためのビジネス戦略を採用する必要性は認識されているものの、エーオンのように事業ごとに分社化する計画は(まだ)ない。RWEの場合、ドイツの電力市場において今でも比較的採算がとれている褐炭による発電量がかなり大きいのだ(同社の発電量の3分の1以上)。これに対して、エーオンでは褐炭による発電はわずか6%であり、2013年には発電量の3分の1が石油とガスによる発電だった。天然ガスは、近年になって価格が理由で市場シェアトップの座を失った。エーオンは、脱原発によって最も影響を受けた会社である。

意図せぬ結果:自然エネルギーが天然ガスを押しのける

この結果には、意図的な部分もあれば(次の「人々による人々のためのエネルギー」参照)、意図しなかった部分もある。意図しなかったのは、自然エネルギーがミディアムロードとして使われるようになったことで、天然ガスタービンの投資価値が失われていることだ。つまり、天然ガスタービンの年間稼働時間が減っているのだ。ドイツでは、基本的にその年のピーク需要を担う調整可能な発電容量を用意しておかなければならない。現在のピーク需要は80 GW前後で、日照のない冬の夜間に発生する。したがって、その80 GWの大部分は調整可能なガスタービンで賄われることになる。この方法は、新たなインフラを必要とせず、季節に合わせて電力を貯蔵しておくことができるので、全体として技術的に最善の方法であると考えられている。 ドイツの研究者の推定では、 現在のドイツ国内には、国の4カ月分の電力需要を満たすのに十分な天然ガスが貯蔵できるという。

こうした結果はある程度予測できたが、事態は自然エネルギーの支持者たちの大方の予想を上回るペースで進展した。特に太陽光発電は、2010年から2012年にかけて毎年7.5 GWずつ新たに導入されるという、極めて急速な発展を遂げた。ドイツの太陽光発電市場がこの3年間のペースで成長し続けたとしたら(実際の導入量は2013年が3.8 GW、2014年が1.9 GWにとどまった)、ドイツの夏のピーク需要(平日が60~70 GW、週末が50 GW 程度)の150%以上の電力が得られていただろう。あるドイツ人研究者が発表した「歯科医のカルテ」のようなグラフから、もし2020年までの太陽光発電の導入量が(わずか)70 GWと仮定する場合の効果が分かる(政府の2020年までの正式目標は52 GWであることに留意してほしい)。

このグラフにはベースロードは存在しない。グレーの部分で示されるのは、ミディアムロードとピークロードである。明らかにドイツに必要なのは、毎日のように数時間以内に出力量を10 GWから50 GW以上の範囲で調整できる柔軟性の高い発電所である。今のドイツには、これほどの量の柔軟な発電容量は用意されていない。しかも、卸売価格が下落して市況が変わったため、現在計画されている新たな発電所の建設も、全体的に見直しが求められている。ドイツの電力市場における卸売電力価格は、2010年から2014年の間に約3分の1も下落した。その主な理由の一つが、太陽光発電の成長である。主に昼の時間帯に発電される太陽光発電によって、昼間のピーク時の需要の大部分が賄われることになったのだ。

自然エネルギーに必要なのはベースロードではなく柔軟なバックアップ電源

このグラフにはベースロードは存在しない。グレーの部分で示されるのは、ミディアムロードとピークロードである。明らかにドイツに必要なのは、毎日のように数時間以内に出力量を10 GWから50 GW以上の範囲で調整できる柔軟性の高い発電所である。今のドイツには、これほどの量の柔軟な発電容量は用意されていない。しかも、卸売価格が下落して市況が変わったため、現在計画されている新たな発電所の建設も、全体的に見直しが求められている。ドイツの電力市場における卸売電力価格は、2010年から2014年の間に約3分の1も下落した。その主な理由の一つが、太陽光発電の成長である。主に昼の時間帯に発電される太陽光発電によって、昼間のピーク時の需要の大部分が賄われることになったのだ。

一つの可能性として現在議論されている対策は、容量支払制度である。この制度では、すぐに出力を調整できる発電所の所有者が、発電量(kWh)だけでなく待機中の容量(kW)に応じても支払いを受ける。同様の制度は、アイルランドなどの他の国々にも導入されている。英国も2014年に同じような事業計画を発表したが、すべての電力会社に支払いを行ったことで強烈な批判を受けた。2015年、ドイツ政府は、「冬季予備力」を2.5 GWから4.0 GWに増やすことによって支払額を低く抑えることを決定した。ドイツには調整電源の発電容量が100 GW以上あることを考慮すると、通常は1年に1~2日しか稼働しない発電所からなる冬季予備力の容量はかなり少ないといえる。