主要課題の技術的側面

人々による人々のためのエネルギー

ドイツの人々は電力会社を選ぶことができる。実際、人々は電力消費者として自由に選択できるだけでなく、生産者であり消費者でもある「プロシューマ―」となる自由もある。発電した電力を売って利益を得ることもできるのだ。ドイツの再生可能エネルギー法の規定では、小規模生産者の電力は企業の電力よりも優先されることになっている。ドイツでは、固定価格買取制度によってこのような電力の地域所有が進んだ。その結果、NIMBY(not in my backyard=居住地域近隣への施設建設などを反対する)主義の人が減ると同時に、自然エネルギーを受け入れる意識も高まっている。

大半の国では、電力は大規模な集中型発電所で発電されるため、エネルギー産業は長年にわたって大企業に支配されてきた。これに対して、自然エネルギーが新たに提供したのが、大企業から多数の小規模発電事業者へ移行する機会である。このような分散型のアプローチによって、市民や地域社会に参加する機会が与えられる。ドイツでは、非常に多くの市民がエナギーヴェンデに参画している。

「固定枠制度」(RPS制度)という政策によって電力会社に環境に優しい発電の増加を求めることで、自然エネルギーへの転換を進めている国もある。このような政策では、電力会社に対する到達目標が設定され、それが達成できなかった場合には罰則が科されることもある。この制度は、全体的にコストに重点を置いたものであり、電力会社が最もコストの低い自然エネルギー電源を選択するという仮定に基づいている。たとえば、英国風力エネルギー協会の風力発電プロジェクトのリストには、ドイツ式の固定価格買取制度の採用国には存在しない「提出済み」、「承認済み」、「却下」、「建設済み」という分類が載っている。この「却下」とは、プロジェクト申請のプロセスの一部として起こりうるものであり、米国においてもよく見られる。

一方ドイツには、風力発電所の提案書を審査して承認・却下する役割を担う組織は存在しない。その代わり、風力発電所をどこに建設してよいか、どのように設計するか(スペース、発電機の数など)は、立地自治体によって決定される。実際、電力会社は自然エネルギーを拡大する責任を負わないため、罰則が科されることもない。電力会社も固定価格買取制度を利用することは可能だが、そのような投資を敢えてする会社はほとんどない。固定価格買取制度と固定枠制度という2つのアプローチの違いは、全体的に見ても顕著である。固定枠制度では、時間をかけて審査が行われたのち、最も低コストのシステムだけが採用され、その後も大企業の管理下で事業が進められる。固定価格買取制度では、価値のあるプロジェクトはすぐに実現し、電源の所有権はいち早く市民に移管される。つまり、ドイツはエネルギー部門の民主化を進めているといえる。

(米国のRPS制度のような)固定枠制度において、こうしたコスト重視が正当化されるのは、超過分の利益が少数の大企業の懐に入るからだ。この固定枠制度の支持者たちは、固定価格買取制度には固定枠制度よりも大きなコスト的影響があることが多いと指摘する。この指摘はもっともではあるが、彼らは2つの点を見落としている。一つ目は、一般的に固定価格買取制度の採用国のほうが、自然エネルギーによる発電の導入量がはるかに多いという点。2つ目は、適切に設計された固定価格買取制度であれば、そこから生じる利益は多国籍組織などではなく小口投資家に還元されるため、エネルギー産業にはびこってきた大企業による締め付けを打破することができる点である。言い換えれば、少し高くなった小売価格を負担する人々の多くは、その増額分からの収入を得ることもできるということだ。

固定枠制度の支持者は、自分たちは技術の選り好みをしない「技術に中立的」な立場だが、固定価格買取制度はあらかじめ「勝者を選択」していると指摘する。しかし、市場における結果の違いを見れば、この指摘があり得ないものだということが分かる。固定枠制度で推進されるのは、最もコストの低い自然エネルギーであり、今までのところそれは陸上風力であることが多かった。当然ながら、最近まで比較的高コストだった太陽光発電は、特別枠がない限りオークションで全く落札できないこともあった(ただし、今では太陽光発電のコストもかなり手頃になったため、この状況は変わりつつある)。一方、すべての自然エネルギー源に対して固定価格買取制度が導入されている市場では、すべての自然エネルギー源が一様に強化されるのが普通である。そして、エネルギー転換を進めるには、最もコストの低い自然エネルギー源だけに頼るのではなく、さまざまなエネルギーを適切に組み合わせて利用することが必要なのだ。

皮肉にも、「技術に中立的」だとされる政策(固定枠制度)が一つのエネルギー源(陸上風力)への依存を招き、「勝者を選択」するとされる政策が技術の融合を生むという結果になった。さらに、オークションは「競争的」であるといわれるが、実際の競争はエネルギー源の間で起こっている。オークションでは企業同士の競争もあるが、それによりいっそう市場集中が進んでしまう。固定価格買取制度では、これよりはるかに自由な市場が形成され、新規参入業者が既存業者と対等な立場で競争することができる。

最近まで、米国風力エネルギー協会(AWEA)のウェブサイトには「プロジェクト」というコーナーがあり、各風力発電所を場所、規模、所有者別に示した一覧表が載っていた。当時、世界で最も風力発電の導入量が多かったのはドイツである。しかし、ドイツの風力発電に関する統計の照合を行う組織であるドイツ風力エネルギー研究所(DEWI)は、そのような表を作成したことはないとして、次のように述べている。「ドイツでは、特定の風力発電所の所有者が誰であるかを示すことはできない。なぜなら、所有権が何百という多数の地元市民や企業に分散しているからだ。」

このように自然エネルギーを地域全体で所有する例は、ドイツでは一般的であり、何も特別なことではない。その一例であるダルデスハイムでは1994年から事業が始まっているが、一番早くから始めているのは、デンマークとの国境に近いフリードリッヒ・ヴィルヘルム・リュプケ・コークという小さな町である。一方、ドイツの南西の隅にある人口22万人ほどの町フライブルクでは、近くの丘に4基の風力発電機が設置され、その資金の約3分の1が市民からの出資、残りの3分の2が銀行からの融資で賄われた。このプロジェクトの管理者によると、銀行の金利は約4.5%だったが、出資した市民には最高6%の配当金を支払ったという。市民による出資が株式資本と見なされたのだ。別の言い方をすれば、株式資本が多いために銀行の金利が比較的低くなったともいえる。一方、銀行から多額の融資を受ける場合と比べて、小口投資家が何百人もいる場合は文書業務が多くなる。しかし、フライブルクのプロジェクトをはじめとするドイツの多くのプロジェクトは、地元からのさらなる支持を獲得することに重点を置いている。したがって、地域の人々は、やりたい放題に見えてしまう他所からの企業ではなく、同じ地域の人々を相手に交渉することができるのだ。

最新のプロジェクトが目指しているのは、地域が純輸出者――余剰電力を系統に販売して、自然エネルギーが不足した場合のみ系統から電力を購入する――となるだけでなく、完全にエネルギーを自給自足できる社会となることである。たとえば、ペルヴォルム島では、蓄電設備を備えたスマートグリッドに接続されたハイブリッド発電所で太陽光、風力、バイオマス、地熱による発電を統合して行うことにより、1,200人の島民の輸入エネルギーへの依存度を9割も削減している。

バイオマスを利用する地域所有のプロジェクトもある。2004年、ユーンデ村のある農民が、エネルギー作物の栽培を希望する他の農民9人と協同組合を結成した。村民の70%以上が、既存の暖房システムから、村に新設されたバイオガス発電設備に接続された地域の熱供給網に転換することに同意した。そのバイオマス発電設備の燃料は、主に村で栽培されたトウモロコシで賄われている。数年を経た現在、村民が支払う光熱費は石油や天然ガスの輸入に使われるのではなく、地域の農民や企業に還元されるようになったのだ。

ユーンデ村が自然エネルギーによる熱供給に転換したとき、村は全国的に大きな注目を集めた。それ以来今に至るまで、ユーンデ村はその他数多くの地域の手本となっている。 実は、エネルギー作物として利用されるトウモロコシの生産が急増したときには、一部から批判の声が上がった。人々はモノカルチャーを恐れ、生物多様性と景観への影響を懸念したのだ。しかし、米国のコーンベルト、ブラジルの大豆プランテーション、マレーシアのパーム油プランテーションを訪れたことのある人なら、それと比べればドイツ最大のトウモロコシ畑さえかなり小規模だということが分かるだろう。

新たなプロジェクトの成否は、今後も地域による支援が決め手となる。もし影響を受ける市民が、これ以上周囲をトウモロコシ畑で囲まれるのが嫌だと言えば、プロジェクトは進展しない。

全体として、「エネルギー協同組合」、つまり地域所有の自然エネルギープロジェクトは、2013年には13万人以上の市民から12億ユーロ以上の出資を集めたと推定されている。このような出資が可能なのは裕福な人だけだという意見も少なくない。たとえば、持ち家がなければ屋上太陽光パネルを設置できないという指摘がその一つだ。しかし、ドイツのエネルギー協同組合の90%以上が既に太陽光発電設備を設置しており、こうした協同組合の3分の2では、一人分の負担額は500ユーロ未満である。最低額が100ユーロを下回る場合もある。ドイツ連邦太陽光産業協会(BSW-Solar)の代表が述べるとおり、「エネルギー協同組合のおかげでドイツのエネルギー供給が民主化され、持ち家がない人も含めて誰もがエネルギー転換の恩恵を受けられるようになる」のである。

さらに、エネルギー協同組合は発電するだけではなく、系統を所有することも視野に入れている。この動きの先駆けとなったのが、1990年代のシェーナウのいわゆる “電力反逆者”たちである。, 黒い森(シュヴァルツヴァルト)の中の小さな村の住民である彼らは、その地域の電力会社に対する抵抗運動を続け、ついには同社から地域の電力系統を買い取ることに成功したのだ。この動きは現在も続いており、全国的な広がりを見せている。また2014年には、ドイツ第2の都市であるハンブルクで、住民投票により配電網の買い取りが決定した。もっとも、首都ベルリンでの同様の運動は失敗に終わっている。範囲はかなり限られているものの、洋上風力発電のために延長された送電線の支柱さえ、市民による買い取りが可能である。

社会的転換

エナギーヴェンデは技術的な課題であるだけでなく、我々に行動の変化を求めている。目標を達成するためには、ドイツは文化的変革を重点とした「自立戦略」を推進しなければならない。このような変化は一夜にして成るものではなく、長い時間と大幅な意識の向上を必要とする。ドイツは快適な衣食住を大切にする社会である。したがって、生活に関わるさまざまなものがより効率的になったときに、たとえば燃費が2倍よい車に乗れば同じガソリン代で2倍長く走れるというように、安易に決めつけないようにしなければならない。ドイツでは、行動を改めるための政策に関する議論は始まったばかりである。(エネルギー協同組合のような)新たな所有・資金調達モデルによって、新たな形の市民参加が可能になるだけでなく、地域の変化に対する支持やエネルギー消費に対する意識も高まることが、既に明らかになっている。

これからますます必要となってくるのは、柔軟性のある新たな方法を試すことである。住宅関連の団体は、ここ数十年間続いている一人当たりの居住面積の拡大に歯止めをかけるために、簡単に部屋を分割できる柔軟な住宅のコンセプトに取り組んでいる。また、最近の集合住宅には地下に共用の超高効率の洗濯機が備えられている。さらに、カーシェアリングにより人々のニーズに合った効率的な移動が可能になった。しかし、人々がこれらの方法を仕方なく取り入れるようなことがあってはならない。むしろ、何の前触れもなく変動するエネルギー価格や二酸化炭素排出量の影響がもたらす問題に対して意識が高まっていけば、自分自身でそのような解決策を導き出せるようになるだろう。