欧州の状況

ポーランドのエナギーヴェンデ:EU加盟をきっかけとする本気の転換

「石炭を愛する」ことで知られるポーランドでもエネルギー転換の兆しが見えている。意外にも、この中欧の大国には他の選択肢がない。拡大欧州連合の新加盟国へのいわゆる「スイス・コントリビューション)」(スイスは欧州経済地域の一端を担っていることからわずかな分担金を支払っている)のおかげで、ポーランド南部の大都市クラクフ周辺に位置する4つのコミュニティーの数千世帯が太陽熱温水器システムを利用できるようになる。

Tomasz Ulanowski氏およびGazeta Wyborcza氏

この「スイス製」太陽光パネル(Viessmann社製、ポーランド人はドイツ製品が好きなのだ)は無料ではない。しかし、スイスからの70%の補助金と地元コミュニティーが支払う10年間の技術サービスがあり、この太陽光パネルは実にお買い得商品である。4、5人の家族で、組み立てと設置を含めシステム全体に対して約1,000ユーロ払えばよいだけである。つまり、この投資は約6年で元が取れるというわけだ。

このプログラムの目標は、ポーランドのCO2排出量(ポーランドの年間CO2排出量は、約3億3,000万t)と国のほぼ全域にわたる大気汚染を削減することである。クラクフでは、1年の半分近くは大気中のPM10(直径10マイクロメートル以下の粒子)がEU制限値を上回る。他にもポーランドの多くの都市がEU内の大気汚染が最も深刻な地域トップ10に入っている。大気汚染のほとんどは輸送や工業が原因ではなく、暖房用に家庭で燃やす石炭やあらゆる種類のゴミによるものである。

西欧諸国が発電のグリーン化を検討している時代に、ポーランドは、国民の考え方を変革させ家庭での低質な燃料の使用を止めさせるようにするにはどうすればよいのか、というもっと基本的な問題を抱えている。しかし、ポーランドの電力市場も転換期を迎えており、2004年に欧州連合に加盟して以来、様々な動きが起こっている。

数字の重要性

EC統計局の最新報告によると、2013年のポーランドにおいて最終エネルギー総消費量の11.3%および総電力消費量の10.7%のみが自然エネルギー源に由来する。さらに、ポーランドのエネルギー政策に関する国際エネルギー機関の報告では、2011年の「ポーランドにおける一次エネルギー供給の55%および発電の92%」を石炭が占めたとしている。

ポーランドの現在の自然エネルギー源の大半はバイオマスである。2014年EurObserv’ERの欧州における自然エネルギーの現状に関する報告によると、2013年末でポーランドの風力発電導入量は3.4 GW、太陽光発電導入量に至ってはわずか4.2 MWにすぎない。したがって、ポーランドの気候はドイツと似ているにも関わらず、ドイツの太陽光および風力発電の導入量に比べるとポーランドの数字は取るに足りない。理論的には、ドイツは、ポーランド全体の石炭火力発電所の発電量と同量の電力を、風力または太陽光のどちらか一方だけで発電できる。

気の滅入るような数字であるが、この数字は大局的に捉える必要がある。ポーランドがEUの一員となった2004年、同国のエネルギー消費における自然エネルギーの割合は、わずか6.9%、電力消費では2.1%だった。現在は、最終エネルギー総消費量の15%を自然エネルギー由来にするという2020年の目標に向かって順調に歩みつつある。特に、スウェーデン(目標:49%)、ラトビア(40%)、フィンランド(38%)、オーストリア(34%)、デンマーク(30%)などの自然エネルギー大国に比べると15%は多いようには見えないかもしれない。しかし、これは明らかにエネルギー転換の始まりだ。

この始まりがどれほど困難だったか理解するには、数字をもう一度見直す必要がある。2013年のポーランドでは、約17万人が鉱業部門に雇用されていた(主に石炭だが、銅など他の金属もある)。(第二次世界大戦後の時代から受け継いだこのエネルギー部門のおかげで)20年前には鉱山労働者の数が2倍であったとはいえ、ポーランドは依然として欧州連合の石炭の中心地である。さらに、鉱山労働者は、非常に重要な社会的・政治的勢力を形成している。彼らの社会給付を制限したり鉱山を閉鎖したりしようとするたびに、政府は激しい抵抗を受けてきたのだ。

では、ドイツの本格的なエナギーヴェンデのようなエネルギー転換をポーランドで実現する余地はあるのか。

エネルギー転換の兆し

余地はある。端的に言えば、ポーランドに他の選択肢はない。本家の(ドイツでは脱原発と迅速な自然エネルギー強化を意味する)エナギーヴェンデとは少し異なるポーランド版エナギーヴェンデの兆しが見えている。

このことを裏付ける3つの事柄がある。

第一に、「現在の発電施設と熱電併給施設の約半分が30年以上前のもので、近い将来、耐用年数に達すれば交換する必要が出てくる」。今の政府はこのことを十分に把握している。そのため(効率が約30%向上し従来のものより汚染が少ない)複数の石炭火力発電所と(設置場所を選定している段階の)原子力発電所1基の建設および(収入を上げる以外にも、ロシアの天然ガスに対する依存からの脱却が主な理由である)シェールガス採掘への投資を進めてきた。

第二に、欧州委員会が監視している。地域のエネルギー資源である自然エネルギーは、新たに形成されつつあるエネルギー同盟にとって重要な位置を占める。そのため委員会は、大気汚染や自然エネルギー政策の不足に対し罰金を科してポーランドを脅し続けている。2015年2月、数年間の奮闘の末、ついにポーランド議会は自然エネルギーに関する新しい法律をなんとか通過させた。ブロニスワフ・コモロフスキ大統領が署名した新しい法律は、大手の自然エネルギー発電事業者に対する適正な環境だけでなく、中小事業者や家庭内発電にも非常に有利な固定価格買取制度を用意する。1ユニット当たり最大10 kWの小規模発電事業者の総容量の上限はわずか800 MWで、それに達すると、以降の新しい設備に対しては固定価格買取制度が適用されなくなるとはいえ、本当のエネルギー改革となるかもしれない。時が証明してくれることになるだろうが、ポーランド人は(冬に備えてザワークラウトやピクルスやジャムを作るように)家庭での発電がいい収入源になるとわかれば、自家発電をさらに進めるかもしれない。そうなった時には、現在、大手事業者(多くの場合国有のエネルギー企業)に好意的な政治家も、国民の要求に従わざるを得なくなるだろう。

第三に、近年、ポーランド人の環境に対する意識が高まってきた。ポーランドのマスコミが自国の大気汚染についてこれほど多く報道することは今までなかった。さらに、環境省の最近の世論調査によると、ポーランド人の86%が世界の気候変動を重要な問題と考え、74%がポーランドは温室効果ガスの排出を削減するべきだと思っている。

廃棄物政策

ポーランドのエナギーヴェンデの好例が廃棄物政策である。2005年には一般廃棄物のわずか7%しかリサイクルされていなかった。しかし、2012年にこの数字は20%に達した。ポーランドは、2012年12月に議会が通過させた廃棄物に関する新法のおかげで、廃棄物をリサイクルまたは焼却し、廃棄物処理を最小限に抑えるという循環経済に向かって進んでいる。

クラクフは現在、廃棄物を利用した熱電併給プラントを建設中で、2015年末の完成を予定している。約1億5,000万ユーロかかると言われているが、その半分は欧州の各種基金から出ている。同プラントは、クラクフ市だけでなく近隣地域の非リサイクル廃棄物を焼却することになっている。実際、こうしたプラント網が各地で建設されている。ポーランド人は昔から暖房用に原始的なストーブでゴミを燃やす習慣があるが、現在、21世紀のテクノロジーに向かってゆっくりと進んでいる。

バルト海沿岸の小さなコミュニティー、ウストロニエ・モルスキエでは、古い廃棄物処理施設を利用して1~4 MWの太陽光発電所が建設される。そこで発電された電力が地域の建物の暖房に一役買う。投資のほぼ3分の1はEU基金で賄われる。私が石炭の臭いがすると文句を言うと「私たちはいつも石炭を燃やして暖房や調理をしてきたんですよ」とクラクフ近隣の村の住人が言った。彼らが石炭を燃やすのは石炭を愛しているからではなく、他にいい燃料がないからである。健康面、金銭面、利便性の面から、クリーンエネルギー(の方)が得だと分れば、間違いなくクリーンエネルギーを利用する。人間とはそうしたものだ。スイス・コントリビューションも含め欧州の資金提供が、ポーランド人のエネルギーへの取り組みを変えることを願っている。