欧州の状況

オーストリアとそのエネルギー転換:遅れをとった先駆者

一見すると、エネルギー部門におけるオーストリアの実績は輝かしいものに見える。2012年には最終エネルギー総消費量の約32.5%が自然エネルギー源によって供給された。

EUで自然エネルギー比率がオーストリアを上回る国は、ラトビア、フィンランド、スウェーデンだけである。さらに、オーストリアでは電力消費量の約3分の2がすでに自然エネルギー源から供給されている。オーストリア政府は、欧州レベルで拘束力のある自然エネルギー目標を支持し、原子力産業の補助金を増やす戦略に反対している。しかし、気候分野に暗い影も見える。オーストリアは京都議定書目標を達成できなかった。温室効果ガスを1990年比で13%削減するかわり、2012年までに2.5%増やした。そのため、オーストリアは、7,155万トンものCO2排出枠を購入しなければならなかった。こうした事態の原因は、過去20年間の気候・エネルギー政策に深く根ざしている。

過去の要因

オーストリアの自然エネルギー源によるエネルギー生産は、水力とバイオマスを基本としている。比較的小さな国だが、オーストリアは欧州第4位の水力発電国である。オーストリアにおける水力発電の核となる整備は20年前に完了し、現在、水力発電に残されたポテンシャルはほとんどない。バイオマスも同様である。すなわち、「伝統的な」自然エネルギー源のポテンシャルはすでに使い尽くされている。

一方オーストリア政府は、風力や太陽光などの新しい自然エネルギー源の導入にはあまり積極的ではない。そのため、電力部門における自然エネルギー比率は、何年にもわたって毎年下がり続け、代わりに化石エネルギー比率が増えている。2011年、福島の原発事故後、オーストリアの「エコ電力法(Ökostromgesetz)」(ドイツの再生可能エネルギー法(EGG)と類似する法律)を大幅に変更して、系統に接続できる風力および太陽光発電を増やせるようにした。もっとも、この改正は2012年に終了する京都議定書第一約束期間には間に合わなかったが、それでも電力部門におけるオーストリアのエネルギー転換の再開と見なすこともできる。オーストリアでは、2020年までに電力に占める自然エネルギー比率が80%に達する可能性が高く、そうなれば、再び先駆者の地位を確立できるだろう。

先駆者および政治的支援の欠如

オーストリアのエネルギー転換で電力部門は主要な役割を果たしているが、気候・エネルギー政策で注目すべき重要な分野は他にもある。たとえば、建築部門である。建物はオーストリアの最終エネルギー需要の約3分の1を占めている。同国は、パッシブハウスの先駆的な役割を果たし、パッシブハウスの割合が欧州で最も高い。熱部門の排出量は1990年比で34%削減され、さらに削減できる余地も大きい。

この成功の主な原動力は、建物の改修を奨励する補助金と、オーストリアで建築部門の規制を担当する州の多くによってエネルギー効率化要件が強化されていることによる。しかし、建物のエネルギー効率を高めるために中央政府と州が合意した最後の戦略は2008年にまで遡り、建物の改修に対する効率化要件を強化する措置は2010年が最後となった。さらに、緊縮政策により多くの州が補助金を削減し、毎年の改修率は約1%に下がった。つまり、オーストリアは、すべての建物を改修するのに約100年かかるということだ。年間の生産エネルギーが消費エネルギーを上回る「プラスエネルギー建築」はすでに建てられ始めているが、過去の成功を足掛かりとするには、建築部門におけるエネルギー効率化に対し、さらなる政治的支援が必要である。

前途に待ち受ける大きな課題

概して、オーストリアは多くの側面で先駆的役割を果たしているが、政策立案者の態度は優柔不断である。2014年に行われた世論調査では、国民の79%が化石燃料の迅速な段階的廃止を支持したが、オーストリアでは化石燃料を段階的に廃止する長期の政府戦略は策定されていない。措置を講じるための議論は経済面から積極的に行われているため、これは大きなギャップである。オーストリアでは必要なエネルギーの約64%を輸入しなければならない。化石エネルギーの輸入額は、オーストリアのGDPの約4.2%に相当する年間128億ユーロにのぼり、15年前の4倍以上になっている。

オーストリアのエネルギーシステムでは石炭もいまだに大きな役割を果たしており、外的要因による健康被害コストは年間で約1億9,200万ユーロに達する。これは、自然エネルギー比率の高さが、この最も汚染度の高いエネルギー源の完全な廃止にいまだつながっていないことを意味する。さらに、約70万世帯が今も石油による熱供給システムを使用し、石油会社は新規の石油熱供給システム設置に補助金さえ提供している。また、政策立案者は、オーストリアのCO2排出に決定的な役割を果たす輸送部門について措置を講じることを躊躇している。結果として、オーストリアがエネルギー転換の真の先駆者に返り咲こうとするなら、やるべきことは数多く残っている。